建設業の法定福利費とは?計算と内訳明示書
公開 2026年9月1日
目次8項目
- 1建設業の法定福利費とは何を指すか
- 労災保険料は元請が一括で納める
- 子ども・子育て拠出金の扱いを決めておく
- 建退共の掛金は別に扱う
- 2建設業の法定福利費を見積書に明示する理由
- 各団体の標準見積書が用意されている
- 元請から様式を示される場合がある
- 明示した額は値引きの対象から外す
- 3建設業の法定福利費の計算のしかた
- 保険料率は年度ごとに確認する
- 対象になる労務費を切り分ける
- 端数の処理を決めておく
- 4建設業の法定福利費の内訳明示書に書く項目
- 工種ごとに分けて書く
- 対象人数を添える
- 様式は毎年見直す
- 5建設業の法定福利費と建退共の関係
- 就労状況の記録を日ごとに残す
- 電子で申請する仕組みが広がっている
- 掛金の額は改定されることがある
- 6建設業の法定福利費を元請から求められたときの進め方
- 指定の様式があるかを先に聞く
- 労務費の根拠を別紙で残す
- 提出した内訳を工事ごとに保管する
- 7建設業の法定福利費でつまずきやすいところ
- 常用と請負の区別を見積りの段階でつける
- 追加工事の分を計上し忘れない
- 値引きの交渉で削られたときの記録を残す
- 8建設業の法定福利費を社内で回す形にする
- 様式を1つに決めて共有する
- 見積りと実績を年に1回比べる
- 元請への説明の型を用意しておく
見積書の値引き交渉で、法定福利費まで含めて何パーセント引き、という話になることがあります。この費目は社会保険料の原資であり、削れば納付するお金がなくなります。
一般には、工事に必要な労務費を出し、そこに各保険の事業主負担分の料率を掛けて算出します。そのうえで見積書の内訳として並べ、金額が見える形にしたまま契約するという流れになります。明示する目的は金額を増やすことではなく、原資が削られない状態を作ることにあります。
ポイントはここです。建設業の法定福利費は、工事の値引きの対象にしないという前提で計上されます。
ここでは、何が含まれるのか、計算のしかた、内訳明示書の書き方、そして建退共との違いを順に整理します。
建設業の法定福利費とは何を指すか
建設業の法定福利費は、法律で加入が決まっている保険の事業主負担分を指します。会社が任意で行っている福利厚生とは、扱いがはっきり分かれます。
法定福利費
- 法律で加入が決まっている
- 健康保険・介護保険
- 厚生年金保険・雇用保険
- 事業主の負担分を計上
福利厚生費
- 会社が任意で行う
- 慶弔見舞金や社員旅行
- 作業服の支給など
- 見積書には通常入れない
任意で行っているものを混ぜると、計算の根拠が説明できなくなります。
労災保険料は元請が一括で納める
労災保険は、建設の事業では元請が現場全体をまとめて加入します。下請の作業員も、その現場の労災保険で守られる形です。
そのため下請が見積書に計上する法定福利費には、労災保険料が入りません。元請が一括で納める仕組みになっているため、二重に計上しない形にします。
子ども・子育て拠出金の扱いを決めておく
厚生年金保険の適用を受ける事業主が納めるもので、事業主が全額を負担します。法定福利費に含めるかどうかは、使う様式によって扱いが分かれます。
元請から様式を示されている場合は、その様式の考え方に合わせます。自社の様式で出す場合は、含めるかどうかを決めて毎回そろえておきます。
建退共の掛金は別に扱う
建設業退職金共済の掛金は、社会保険料ではなく退職金の共済制度です。
建退共の掛金は法定福利費に含めず、別の項目として計上する形が一般的です。
そのため見積書では、法定福利費とは別の行を立てます。
建設業の法定福利費を見積書に明示する理由
建設業の法定福利費を見積書に明示するのは、契約の段階で原資を確保するためです。金額が見えないまま総額だけで交渉すると、この分が削られたことに誰も気づきません。
- 1 労務費を出す 工事に必要な人工から
- 2 保険料率を掛ける 法定福利費を算出
- 3 見積書に明示 内訳として並べる
- 4 契約 値引きの対象にしない
- 5 加入と納付 原資として使う
明示したうえで契約に反映されると、保険料の原資が確保されます。
各団体の標準見積書が用意されている
専門工事業の団体ごとに、標準的な見積書の様式が用意されています。自社で一から作らなくても、その様式を使えば必要な項目がそろいます。
業界で共通の様式を使うと、元請の側も見慣れた形で受け取れます。説明にかかる時間も短くなります。
元請から様式を示される場合がある
元請が独自の様式を指定してくることがあります。その場合は指定に従いますが、自社の計算の根拠は別に残しておきます。
様式が変わっても計算のしかたは変わりません。根拠を別紙で持っておくと、様式が変わっても作り直しが最小限で済みます。
明示した額は値引きの対象から外す
明示した法定福利費を値引きの対象にすることは、制度の趣旨に反します。総額での値引きを求められた場合は、労務費や材料費の側で調整する話になります。
交渉の経緯を記録に残しておくと、後から説明できます。
建設業の法定福利費の計算のしかた
計算そのものは単純で、労務費に料率を掛けるだけです。つまずくのは計算式ではなく、その前の労務費の切り出しです。
- 1 人工の数 工種ごとに拾う
- 2 労務単価 職種ごとの単価
- 3 労務費 人工×単価で算出
- 4 保険料率 各保険の事業主負担分
- 5 法定福利費 労務費×料率
労務費が決まらなければ法定福利費も出せません。そのため見積りの段階で人工を拾う作業が、そのまま計算の土台になります。
保険料率は年度ごとに確認する
健康保険料率は都道府県ごとに、雇用保険料率は事業の種類ごとに決まります。どちらも改定されるため、適用する年度の率を確認します。
前年の様式をそのまま使うと、古い料率のまま出すことになります。年度が変わったときに様式を見直す担当を決めておきます。
対象になる労務費を切り分ける
法定福利費の対象になるのは、自社が雇用している人の労務費です。外注に出した分や、一人親方に支払う分は対象になりません。
見積りの段階で労務費と外注費を分けて拾っておくと、計算がそのまま進みます。
端数の処理を決めておく
料率を掛けると端数が出ます。切り捨てるのか四捨五入するのかを決めて、社内でそろえておきます。
工種ごとに計算して合計する場合と、合計してから料率を掛ける場合でも額が変わります。どちらで計算するかも決めておきます。
建設業の法定福利費の内訳明示書に書く項目
建設業の法定福利費の内訳明示書は、金額だけでなく計算の根拠が読み取れる形にします。
労務費に対して、各保険の事業主負担分がどのくらいの比になるかを示した図です。実際の料率は年度と都道府県で変わるため、目安として見る形になります。
介護保険は40歳から64歳の人が対象になるため、対象者がいない工事では計上しない場合もあります。
そのため対象人数を添えておくと、なぜその額なのかが伝わります。
| 項目 | 内容 | 書き方の目安 |
|---|---|---|
| 対象の労務費 | 計算のもとになる額 | 工種ごとに分けて書く |
| 健康保険 | 事業主負担分 | 料率と金額を並べる |
| 介護保険 | 事業主負担分 | 対象者がいる場合に計上 |
| 厚生年金保険 | 事業主負担分 | 料率と金額を並べる |
| 雇用保険 | 事業主負担分 | 事業の種類で率が変わる |
| 合計 | 法定福利費の総額 | 見積書の内訳に転記 |
料率と金額を並べて書いておくと、読む側が検算できます。金額だけを書くと、根拠を聞かれたときに別の資料を出すことになります。
工種ごとに分けて書く
複数の工種が入る工事では、工種ごとに労務費を分けて書きます。どの作業にどれだけの人工がかかるのかが見えます。
追加工事が出たときも、どの工種が増えたのかを示しやすくなります。
対象人数を添える
労務費だけでなく、対象になる人数を添えます。介護保険の対象者が何人いるのかも、そこで示せます。
人数が分かると、金額の妥当性が伝わりやすくなります。
様式は毎年見直す
料率の改定に合わせて、様式の数字を直します。年度が変わった直後に古い様式を使うと、そのまま出てしまいます。
年度の初めに様式を差し替える担当を決めておきます。
建設業の法定福利費と建退共の関係
建設業の法定福利費と建退共は、どちらも人に関わる費用ですが、性格が違います。
社会保険料として納める
- 健康保険・介護保険
- 厚生年金保険
- 雇用保険
- 法定福利費として明示
共済の掛金として納める
- 建設業退職金共済
- 就労した日数に応じる
- 退職時に本人へ支給
- 別の項目として計上
社会保険料は保険者へ納め、建退共の掛金は共済へ納めます。届く相手も、社会保険は制度全体、建退共は本人の退職金という違いがあります。
そのため見積書でも別の行を立てます。まとめてしまうと、どちらがいくらなのかが分からなくなります。
| 項目 | 法定福利費 | 建退共 |
|---|---|---|
| 性格 | 法律で加入が決まる社会保険料 | 退職金の共済制度 |
| 対象 | 雇用している労働者 | 建設現場で働く人 |
| 見積書 | 法定福利費として明示 | 別の項目として計上 |
| 納め方 | 保険料として納付 | 掛金を納付し就労日数を記録 |
建退共の掛金は就労した日数に応じて納めるため、日ごとの記録が前提になります。
就労状況の記録を日ごとに残す
建退共は、その人が現場で働いた日数に応じて掛金を納めます。そのため日ごとの就労の記録が必要になります。
出面表や入退場記録から拾える形にしておくと、月末にまとめて作る作業が要りません。
電子で申請する仕組みが広がっている
証紙を貼る方式から、電子で記録する方式への切り替えが進んでいます。現場での読み取りと連動させる形も広がっています。
どちらの方式を使うかで、現場での作業が変わります。元請の運用に合わせる場面もあるため、着工前に確かめておきます。
掛金の額は改定されることがある
掛金の日額は改定されることがあります。見積りに計上する額も、そのつど見直す対象になります。
改定の情報を、年度の初めに確認する流れにしておきます。
建設業の法定福利費を元請から求められたときの進め方
元請から内訳の提出を求められたときは、様式の確認から入ります。
- 1 様式の確認 指定があるかを聞く
- 2 労務費の抽出 自社の雇用分だけ
- 3 料率の確認 適用する年度で見る
- 4 内訳明示書 根拠が見える形に
- 5 提出 見積書と一緒に出す
先に自社の様式で作ってしまうと、指定の様式が出てきたときに作り直しになります。そのため最初に確認する順序にしておきます。
指定の様式があるかを先に聞く
元請によっては、独自の様式を用意している場合があります。見積りの依頼を受けた時点で確かめておきます。
指定がない場合は、団体の標準見積書を使う形が説明しやすくなります。
労務費の根拠を別紙で残す
内訳明示書には金額だけが並びますが、その元になる人工の拾い出しは別紙で残します。金額の妥当性を聞かれたときに、そこから説明できます。
根拠まで用意しておくと、金額の交渉が値引きの話に流れにくくなります。
提出した内訳を工事ごとに保管する
提出した内訳明示書は、工事ごとに保管します。実際に納めた保険料と比べる材料にもなります。
年度をまたぐ工事では、料率が変わる場合があります。どの時点の料率で計算したかを、控えに書いておきます。
建設業の法定福利費でつまずきやすいところ
金額が合わない原因の多くは、計算式ではなく前提の整理にあります。
- 労務費と外注費を分けて拾っているか はい次へ いいえまず見積りの段階で分ける
- 一人親方を労務費から外しているか はい次へ いいえ契約の形を確認して外す
- 適用する年度の料率を使っているか はい次へ いいえ年度の料率を確認する
- 建退共を別項目にしているか はい計算の前提がそろっている いいえ法定福利費から分ける
4つが整理できていれば、金額の根拠を説明できる
ここが混ざったままだと、後ろの3つを直しても金額が合いません。
常用と請負の区別を見積りの段階でつける
常用で来てもらっている職人と、請負で出している一人親方では扱いが違います。見積りの段階で分けて拾っておかないと、後から切り分けられません。
契約の形と実際の働き方が離れている場合は、そちらの整理が先になります。
追加工事の分を計上し忘れない
追加工事が出ると労務費が増え、法定福利費もその分だけ増えます。当初の見積りの額のままにしていると、その分の原資が不足します。
変更の見積書を出すときに、法定福利費も一緒に計上します。
値引きの交渉で削られたときの記録を残す
総額の交渉の結果、法定福利費が削られた形になることがあります。そのときの経緯を記録に残しておきます。
後から確認を受けたときに、何が起きたかを示せます。
建設業の法定福利費を社内で回す形にする
見積り・契約・納付の3つがつながって、はじめて原資が本来の使い道に届きます。
- 見積り労務費から算出
- 契約内訳を残す
- 納付原資として使う
途中の契約で内訳が消えると、いくら確保されたのかが分からなくなります。そのため契約書か注文書にも内訳を残す形にしておきます。
様式を1つに決めて共有する
見積りを作る人が複数いる場合、様式がばらつくと計算の前提も変わります。社内で1つに決めて、料率の欄も共通にしておきます。
年度の初めに差し替えれば、全員が同じ料率で計算できます。
見積りと実績を年に1回比べる
見積りで計上した法定福利費と、実際に納めた保険料を年に1回比べます。大きく離れている場合は、労務費の拾い方に原因があります。
比べる習慣があると、料率や人工の見積りのずれに気づけます。
元請への説明の型を用意しておく
なぜこの額になるのかを説明する場面は繰り返し来ます。説明の型を用意しておくと、担当が代わっても同じ説明ができます。
計算の順序と根拠の資料をセットにしておきます。
様式は法定福利費内訳明示書テンプレート、就労日数の管理は建退共就労状況管理表からダウンロードできます。
よくある質問
法定福利費に労災保険料は含めますか。
労災保険料は元請が一括して納める仕組みになっているため、下請の見積書に明示する法定福利費には含めない形が一般的です。明示するのは健康保険・介護保険・厚生年金保険・雇用保険の事業主負担分という整理が広く使われています。
建退共の掛金は法定福利費に入りますか。
建設業退職金共済の掛金は法定の社会保険料ではないため、法定福利費とは別に扱う形が一般的です。見積書では別の項目として計上し、必要に応じて内訳を示します。
一人親方に外注した分は法定福利費に入りますか。
一人親方は自社の労働者ではないため、その人にかかる社会保険料の事業主負担は発生しません。法定福利費の計算に使うのは自社が雇用している人の労務費で、外注費は分けて扱う形になります。