建設業の法定福利費とは?計算と内訳明示書

公開 2026年9月1日

目次8項目

見積書の値引き交渉で、法定福利費まで含めて何パーセント引き、という話になることがあります。この費目は社会保険料の原資であり、削れば納付するお金がなくなります。

一般には、工事に必要な労務費を出し、そこに各保険の事業主負担分の料率を掛けて算出します。そのうえで見積書の内訳として並べ、金額が見える形にしたまま契約するという流れになります。明示する目的は金額を増やすことではなく、原資が削られない状態を作ることにあります。

ポイントはここです。建設業の法定福利費は、工事の値引きの対象にしないという前提で計上されます

ここでは、何が含まれるのか、計算のしかた、内訳明示書の書き方、そして建退共との違いを順に整理します。

建設業の法定福利費とは何を指すか

建設業の法定福利費は、法律で加入が決まっている保険の事業主負担分を指します。会社が任意で行っている福利厚生とは、扱いがはっきり分かれます。

法定福利費

  • 法律で加入が決まっている
  • 健康保険・介護保険
  • 厚生年金保険・雇用保険
  • 事業主の負担分を計上

福利厚生費

  • 会社が任意で行う
  • 慶弔見舞金や社員旅行
  • 作業服の支給など
  • 見積書には通常入れない
法定と任意で、扱いがはっきり分かれる

任意で行っているものを混ぜると、計算の根拠が説明できなくなります。

労災保険料は元請が一括で納める

労災保険は、建設の事業では元請が現場全体をまとめて加入します。下請の作業員も、その現場の労災保険で守られる形です。

そのため下請が見積書に計上する法定福利費には、労災保険料が入りません。元請が一括で納める仕組みになっているため、二重に計上しない形にします。

子ども・子育て拠出金の扱いを決めておく

厚生年金保険の適用を受ける事業主が納めるもので、事業主が全額を負担します。法定福利費に含めるかどうかは、使う様式によって扱いが分かれます。

元請から様式を示されている場合は、その様式の考え方に合わせます。自社の様式で出す場合は、含めるかどうかを決めて毎回そろえておきます。

建退共の掛金は別に扱う

建設業退職金共済の掛金は、社会保険料ではなく退職金の共済制度です。

建退共の掛金は法定福利費に含めず、別の項目として計上する形が一般的です。

そのため見積書では、法定福利費とは別の行を立てます。

建設業の法定福利費を見積書に明示する理由

建設業の法定福利費を見積書に明示するのは、契約の段階で原資を確保するためです。金額が見えないまま総額だけで交渉すると、この分が削られたことに誰も気づきません。

  1. 1 労務費を出す 工事に必要な人工から
  2. 2 保険料率を掛ける 法定福利費を算出
  3. 3 見積書に明示 内訳として並べる
  4. 4 契約 値引きの対象にしない
  5. 5 加入と納付 原資として使う
労務費から算出した額を、見積りの段階で見える形にする

明示したうえで契約に反映されると、保険料の原資が確保されます

各団体の標準見積書が用意されている

専門工事業の団体ごとに、標準的な見積書の様式が用意されています。自社で一から作らなくても、その様式を使えば必要な項目がそろいます。

業界で共通の様式を使うと、元請の側も見慣れた形で受け取れます。説明にかかる時間も短くなります。

元請から様式を示される場合がある

元請が独自の様式を指定してくることがあります。その場合は指定に従いますが、自社の計算の根拠は別に残しておきます。

様式が変わっても計算のしかたは変わりません。根拠を別紙で持っておくと、様式が変わっても作り直しが最小限で済みます。

明示した額は値引きの対象から外す

明示した法定福利費を値引きの対象にすることは、制度の趣旨に反します。総額での値引きを求められた場合は、労務費や材料費の側で調整する話になります。

交渉の経緯を記録に残しておくと、後から説明できます。

建設業の法定福利費の計算のしかた

計算そのものは単純で、労務費に料率を掛けるだけです。つまずくのは計算式ではなく、その前の労務費の切り出しです。

  1. 1 人工の数 工種ごとに拾う
  2. 2 労務単価 職種ごとの単価
  3. 3 労務費 人工×単価で算出
  4. 4 保険料率 各保険の事業主負担分
  5. 5 法定福利費 労務費×料率
法定福利費は、労務費が決まらないと出せない

労務費が決まらなければ法定福利費も出せません。そのため見積りの段階で人工を拾う作業が、そのまま計算の土台になります。

保険料率は年度ごとに確認する

健康保険料率は都道府県ごとに、雇用保険料率は事業の種類ごとに決まります。どちらも改定されるため、適用する年度の率を確認します。

前年の様式をそのまま使うと、古い料率のまま出すことになります。年度が変わったときに様式を見直す担当を決めておきます。

対象になる労務費を切り分ける

法定福利費の対象になるのは、自社が雇用している人の労務費です。外注に出した分や、一人親方に支払う分は対象になりません。

見積りの段階で労務費と外注費を分けて拾っておくと、計算がそのまま進みます。

端数の処理を決めておく

料率を掛けると端数が出ます。切り捨てるのか四捨五入するのかを決めて、社内でそろえておきます。

工種ごとに計算して合計する場合と、合計してから料率を掛ける場合でも額が変わります。どちらで計算するかも決めておきます。

建設業の法定福利費の内訳明示書に書く項目

建設業の法定福利費の内訳明示書は、金額だけでなく計算の根拠が読み取れる形にします。

  • 対象の労務費 100計算のもとになる額
  • 健康保険 5事業主負担分
  • 介護保険 1対象者がいる場合
  • 厚生年金保険 9事業主負担分
  • 雇用保険 1事業の種類で変わる
労務費を100としたときの並び方(料率は年度ごとに確認する)

労務費に対して、各保険の事業主負担分がどのくらいの比になるかを示した図です。実際の料率は年度と都道府県で変わるため、目安として見る形になります。

介護保険は40歳から64歳の人が対象になるため、対象者がいない工事では計上しない場合もあります。

そのため対象人数を添えておくと、なぜその額なのかが伝わります。

項目内容書き方の目安
対象の労務費計算のもとになる額工種ごとに分けて書く
健康保険事業主負担分料率と金額を並べる
介護保険事業主負担分対象者がいる場合に計上
厚生年金保険事業主負担分料率と金額を並べる
雇用保険事業主負担分事業の種類で率が変わる
合計法定福利費の総額見積書の内訳に転記

料率と金額を並べて書いておくと、読む側が検算できます。金額だけを書くと、根拠を聞かれたときに別の資料を出すことになります。

工種ごとに分けて書く

複数の工種が入る工事では、工種ごとに労務費を分けて書きます。どの作業にどれだけの人工がかかるのかが見えます。

追加工事が出たときも、どの工種が増えたのかを示しやすくなります。

対象人数を添える

労務費だけでなく、対象になる人数を添えます。介護保険の対象者が何人いるのかも、そこで示せます。

人数が分かると、金額の妥当性が伝わりやすくなります。

様式は毎年見直す

料率の改定に合わせて、様式の数字を直します。年度が変わった直後に古い様式を使うと、そのまま出てしまいます。

年度の初めに様式を差し替える担当を決めておきます。

建設業の法定福利費と建退共の関係

建設業の法定福利費と建退共は、どちらも人に関わる費用ですが、性格が違います。

社会保険料として納める

  • 健康保険・介護保険
  • 厚生年金保険
  • 雇用保険
  • 法定福利費として明示

共済の掛金として納める

  • 建設業退職金共済
  • 就労した日数に応じる
  • 退職時に本人へ支給
  • 別の項目として計上
納める先も、届く相手も別々になっている

社会保険料は保険者へ納め、建退共の掛金は共済へ納めます。届く相手も、社会保険は制度全体、建退共は本人の退職金という違いがあります。

そのため見積書でも別の行を立てます。まとめてしまうと、どちらがいくらなのかが分からなくなります。

項目法定福利費建退共
性格法律で加入が決まる社会保険料退職金の共済制度
対象雇用している労働者建設現場で働く人
見積書法定福利費として明示別の項目として計上
納め方保険料として納付掛金を納付し就労日数を記録

建退共の掛金は就労した日数に応じて納めるため、日ごとの記録が前提になります。

就労状況の記録を日ごとに残す

建退共は、その人が現場で働いた日数に応じて掛金を納めます。そのため日ごとの就労の記録が必要になります。

出面表や入退場記録から拾える形にしておくと、月末にまとめて作る作業が要りません。

電子で申請する仕組みが広がっている

証紙を貼る方式から、電子で記録する方式への切り替えが進んでいます。現場での読み取りと連動させる形も広がっています。

どちらの方式を使うかで、現場での作業が変わります。元請の運用に合わせる場面もあるため、着工前に確かめておきます。

掛金の額は改定されることがある

掛金の日額は改定されることがあります。見積りに計上する額も、そのつど見直す対象になります。

改定の情報を、年度の初めに確認する流れにしておきます。

建設業の法定福利費を元請から求められたときの進め方

元請から内訳の提出を求められたときは、様式の確認から入ります。

  1. 1 様式の確認 指定があるかを聞く
  2. 2 労務費の抽出 自社の雇用分だけ
  3. 3 料率の確認 適用する年度で見る
  4. 4 内訳明示書 根拠が見える形に
  5. 5 提出 見積書と一緒に出す
様式の確認から始めると、作り直しが起きない

先に自社の様式で作ってしまうと、指定の様式が出てきたときに作り直しになります。そのため最初に確認する順序にしておきます。

指定の様式があるかを先に聞く

元請によっては、独自の様式を用意している場合があります。見積りの依頼を受けた時点で確かめておきます。

指定がない場合は、団体の標準見積書を使う形が説明しやすくなります。

労務費の根拠を別紙で残す

内訳明示書には金額だけが並びますが、その元になる人工の拾い出しは別紙で残します。金額の妥当性を聞かれたときに、そこから説明できます。

根拠まで用意しておくと、金額の交渉が値引きの話に流れにくくなります。

提出した内訳を工事ごとに保管する

提出した内訳明示書は、工事ごとに保管します。実際に納めた保険料と比べる材料にもなります。

年度をまたぐ工事では、料率が変わる場合があります。どの時点の料率で計算したかを、控えに書いておきます。

建設業の法定福利費でつまずきやすいところ

金額が合わない原因の多くは、計算式ではなく前提の整理にあります。

  1. 労務費と外注費を分けて拾っているか はい次へ いいえまず見積りの段階で分ける
  2. 一人親方を労務費から外しているか はい次へ いいえ契約の形を確認して外す
  3. 適用する年度の料率を使っているか はい次へ いいえ年度の料率を確認する
  4. 建退共を別項目にしているか はい計算の前提がそろっている いいえ法定福利費から分ける

4つが整理できていれば、金額の根拠を説明できる

法定福利費の計算に入る前の確認

ここが混ざったままだと、後ろの3つを直しても金額が合いません

常用と請負の区別を見積りの段階でつける

常用で来てもらっている職人と、請負で出している一人親方では扱いが違います。見積りの段階で分けて拾っておかないと、後から切り分けられません。

契約の形と実際の働き方が離れている場合は、そちらの整理が先になります。

追加工事の分を計上し忘れない

追加工事が出ると労務費が増え、法定福利費もその分だけ増えます。当初の見積りの額のままにしていると、その分の原資が不足します。

変更の見積書を出すときに、法定福利費も一緒に計上します。

値引きの交渉で削られたときの記録を残す

総額の交渉の結果、法定福利費が削られた形になることがあります。そのときの経緯を記録に残しておきます。

後から確認を受けたときに、何が起きたかを示せます。

建設業の法定福利費を社内で回す形にする

見積り・契約・納付の3つがつながって、はじめて原資が本来の使い道に届きます。

  • 見積り労務費から算出
  • 契約内訳を残す
  • 納付原資として使う
3つがつながって、はじめて原資が届く

途中の契約で内訳が消えると、いくら確保されたのかが分からなくなります。そのため契約書か注文書にも内訳を残す形にしておきます。

様式を1つに決めて共有する

見積りを作る人が複数いる場合、様式がばらつくと計算の前提も変わります。社内で1つに決めて、料率の欄も共通にしておきます。

年度の初めに差し替えれば、全員が同じ料率で計算できます。

見積りと実績を年に1回比べる

見積りで計上した法定福利費と、実際に納めた保険料を年に1回比べます。大きく離れている場合は、労務費の拾い方に原因があります。

比べる習慣があると、料率や人工の見積りのずれに気づけます。

元請への説明の型を用意しておく

なぜこの額になるのかを説明する場面は繰り返し来ます。説明の型を用意しておくと、担当が代わっても同じ説明ができます。

計算の順序と根拠の資料をセットにしておきます。

様式は法定福利費内訳明示書テンプレート、就労日数の管理は建退共就労状況管理表からダウンロードできます。

よくある質問

法定福利費に労災保険料は含めますか。

労災保険料は元請が一括して納める仕組みになっているため、下請の見積書に明示する法定福利費には含めない形が一般的です。明示するのは健康保険・介護保険・厚生年金保険・雇用保険の事業主負担分という整理が広く使われています。

建退共の掛金は法定福利費に入りますか。

建設業退職金共済の掛金は法定の社会保険料ではないため、法定福利費とは別に扱う形が一般的です。見積書では別の項目として計上し、必要に応じて内訳を示します。

一人親方に外注した分は法定福利費に入りますか。

一人親方は自社の労働者ではないため、その人にかかる社会保険料の事業主負担は発生しません。法定福利費の計算に使うのは自社が雇用している人の労務費で、外注費は分けて扱う形になります。

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